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民家の可能性「古民家オフィスみらいと奥出雲」

宇田川孝浩建築設計事務所 宇田川孝浩
奥出雲町布勢地区生まれ。島根大学農学部を卒業後、東京で建築を学び、設計事務所に勤務する。2008年、奥出雲町へUターン。

2008年9月。全ての仕事のケリがつき自由の身になりました。奥出雲町へUターンすることは決めていたのですが、こういう機会しかまとまった時間はとれません。貯金らしきものを使い果たし、ひと月ちょっと予てから訪れたかった建築や都市を廻る旅に出ました。35才になった年の初秋でした。バックパックの貧乏旅行でしたが、憧れのアテネや地中海の島々、イタリアの山岳都市、そしてフランスのル・コルビュジエの建築・・と、安宿に重いバックを預け身が軽くなると、スケッチブックとカメラを片手に朝から日が暮れるまで歩き続ける毎日でした。

35才で無職、独身と世間的にはどうかと思われるかもしれませんが、このときは建築に対する夢と希望に満ちていました。明日のこともわからないといった状態でしたが、このときの僕には何も怖いものはありませんでした。
奥出雲町へ戻るとすぐに建築士事務所を開設しました。何のあてもありませんでしたが、まずは地元奥出雲町へ指名願いを出して公共工事の設計監理業務を請負いながら事務所をなんとか運営してきました。日中は現場でバタバタして夜や週末に図面を描くといった毎日でした。(これは今でもあまり変わっていませんが。)

さて、この度、古民家改修の設計業務を担当させていただく機会を得ました。奥出雲町三沢地区に建つ古民家のリノベーションです。三沢のまちは蔭凉寺が通りを見下ろし、三沢神社が背に構え、かつての宿場町の面影を今に残しています。

【宿場町の面影を今に残す三沢の通り】

本計画は、この三沢の旧街道沿いに建つ空き家となった大柄な古民家を貸事務所(シェアオフィス・コワーキングスペース等)として活用する為の改修工事です。住宅から事務所へと用途が変わるわけですが、日本の民家には現代の住宅のように部屋ごとの用途が決められていない大らかさがあり、新しい用途にも柔軟に対応できることを改めて知る機会にもなりました。
古民家は表と裏にそれぞれ8帖の座敷が三間続き、それぞれシェアオフィススペースとコワーキングスペースになりました。座敷は三方に広縁を廻し、庭に面しています。結果的にどのオフィスも広縁を介して庭につながりました。

【コワーキングスペース】

【コワーキングスペース(ソファ)】

そして残りの一方に土間(トオリニワ)があります。土間の一部にキッチンなど水廻りが設えられ、そして大きなテーブルが置かれました。土間はまちとつながる場所であり、地元三沢の人々とオフィスの利用者が交わる場所として、またキッチンやテーブルを共有することでオフィスの利用者が交流できる、この建物の核のような場所になりました。

【土間(トオイニワ)に置かれた大きなテーブル】

【新設されたキッチン。土間を介して通りを望む】

こうした民家の改修に関わると、かつての民家は共同体のくらしを包み込む存在だったことに気づかされます。座敷は庭とつながり、トオリニワはまちとつながっています。誰もがサラリーマンではなかった時代、ひととひとのつながりが家族を超えて生活を支えていた時代がつい最近まであったことを民家は物語っているようです。
奥出雲町の景観を今も形成する茅葺の大きな屋根(大体板金が被せてありますが)も、縄で結ってある丸太(合掌)や竹の小屋組みも、そして土壁もその場所のひととひとのつながりのなかでつくられ、維持されてきたものです。

「古民家オフィスみらいと奥出雲」には奥出雲で起業・創業された企業等が入居されるとのこと。かつての暮らしが家族を超えたつながりのなかで営まれていたように、ここで「シェア」されるアイディアや人のつながりが奥出雲の未来を照らすことを願っています。
「シェア」とは新しい潮流であると同時に、民家が教えてくれるようなかつての奥出雲の暮らしからも見つけることができます。
古民家オフィスはまさに過去からの時間を未来へつなぎとめてくれる場所としてぴったりと言えるのではないでしょうか。

【まちに開かれた土間(トオリニワ)】

UPDATE 2018.06.05

Person

宇田川孝浩建築設計事務所 宇田川 孝浩

Editor

DEEP TOWN OKUIZUMO

今回は宇田川さんと5月にリニューアルオープンした「古民家オフィスみらいと奥出雲」の紹介でした。 「変化は進化」の次号からは「古民家オフィスみらいと奥出雲」に入居されている企業のみなさんのご紹介です! お楽しみに!!